平成12年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
マグネシウム合金の取扱における安全対策
−マグネシウム合金の高機能化に関する研究−
園田正樹*・高橋芳朗*。清高稔勝*・池田喜一メ*
*材料開発部・**大分県・工業技術院研究交流センター
Sa重ももy M
eas uぞe壬もぎH
am
心血g M
agne由Ⅵm
A且l oy
M
as aki SO
N
O
D
A*.Yos hi r o TAKAH
ASH
‡
*.Tos hi kat s u KI YO
TAI ;A.*and‡
;i i c hi I KED
A**
*
M
at er i al D
evel opm
ent D
i vi s i on and**oi t a−AI St J oi nてRes ear ch Cent er
要旨
現在使用されているマグネシウム合金妄ま大気中で溶解すると発火する性質を持ち,生産量の増加に伴い事故
も近年増加している.我々は大気中でも発火することなく溶解できる難燃性マグネシウム合金J J )精密鋳造技術 の研究開発を行なっているが,それに先駆けて,従来のマグネシウム合金とJ 〕安全面での相違点を把握し,溶 解・鋳造作業における安全指針を定めた.この安全指針に従って難燃性マグネシウム合金の精密鋳造実験(消
失模型鋳造法)を行った.鋳造作業中にスチロール模型が消失し溶融金属に置換される際に発生するバックフ ァイア(いずれの金属でも発生)以外に金属自身の発火は確認されなかった。よって∫ 本安全指針は適切であ ることが分かった.
1. はじめに
次世代軽量構造用金属材料として期待されているマ グネシウム合金(以下Mg合金とする)は大気雰囲気中 で加熱すると微粉末では675K以上で,インゴットでは 溶融状態(融点約923K)になると発火するという弱点 を持っている.よってMg合金の溶解・鋳造。加工㍉熱 処理にはSF6等のシールドガスを用いるなどの安全上 の配慮が必要である.軋 このSF6ガスは地球温暖化 を促進するガスとして,将来的に使用規制が予想され るガスである.
Mg合金は携帯電話㌧パーソナルコンピュータなどの
電子機器筐体として,現在広く用いられるようになりJ その生産量も増加している。しかL,それに伴い取扱 作業中に発生した事故の件数呈)年々増力ロLている.現 在,我々は産業技術総合研究所九州センタれ¶ (旧:工 業技術院九州工業技術研究所)が開発した難燃性Mg合 金の溶解技術を導入し,鋳造b熱処理等の要素技術の 研究開発を行なっている.今回の朝告では同合金を取 扱う際の安全上の配慮について報告するヤ
2. 安全指針
2.1マグネシウム合金の事故を誘発する現象と化学
反応 2.1.1酸素との反応
箔片ゃ微粉状態シ「〕二㍉1g… 士5 空気中において673王く以上
で発火することが知られている。、三た,溶融状態で は必ず燃焼ナる.この化学反応を(1)式に示す互
・人工g+1ノ2(〕ご=m旬0… (1)
2.ト2水蒸気爆発
溶融金属(以下、溶湯とする)中に水滴が混入し
た場合,水蒸気に変化すると体積は12頼筈に膨張す るため,溶湯もそれに伴い飛散ナる.こ〃〕ような軍 象はいずれJ 〕金属でも起こる危険性′ ′ うミあるが† 勘合 金の場合∴溶湯が飛散した場所で∴発火ナるため被害
が拡大する. 2▲L3水との反応
大量〝〕切り屑や微粉を水に浸漬させると水素ガス
を発生L、燃焼・爆発を誘発する.ニ〔′ r 〕化学反応を( 2),(こう)式i こ示す1)
・n′ I g+I l =り=Mか)+H。・(2) 敵m′I g十2I i r −()=n厘(し廿Ⅰ)・,+H一・(ニう) 2.1.4昏変化鉄との反応
赤熱状態の酸化鉄にM
心象湯が接触ナると∴明け
酸化鉄を還元して,それ自体ほ丑1拝し〕となるが、そソ1
ときに多量の熱を発生する(テ′ レミット反′ ざ′ ご) の化学反応を(孔(5)式に示す1、.これにより八1g合
金は容易に気化Lさ 空気中で爆発牒上する危検性.:、 ある.
平成12年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
として,爆発的に燃焼した例1). 2.3 使用するマグネシウム合金の把握
研究に使用する難燃性丸1g合金(▲ ちZC912∴M㌢9I naSS %Aト1ユnaSS%Zn−21naSS%Ca)は市販のダイカスト用九i g合金(AZ91:Ⅸ穣一9.1111aSS%山一0.7mas s %Zn−0.2mas s %九4n−0,001こ〕mas s %Be)にカルシウム(純度99.5mas s %)と亜鉛(純度99.999mas s %)を合金元素として添 加することにより作成された合金である.(本報では
AZ91合金にカルシウムを2m
as s %添加した合金をAZC9
12として標記する.本来AZCのCはCuを表す.) この合金は産業技術総合研究所九州センター(旧: 九州工業技術研究所)が開発したもので,カルシウム
無添加のAZ91合金より燃焼開始温度が200\ニう00K上
昇する=う).
上記の特性により,この合金を溶解・鋳造する際に
SF6などのシールドガス及びフラックスを用いる必要
がなくなる.この利点として,地球温暖化係数がCOニ ガスの16300倍4)であり,将来的に利用規制が予想され るSF。ガスが不要となる事】黒鉛るつぼに浸透して割 れやすくするフラックス5)が不要となるので,脱酸性に 優れた黒鉛るつぼを使用できる事が挙げられる.
カルシウム添加により難燃化する反面,結晶粒界に
カルシウム化合物(A12Ca)が析出するため6)〕鋳造材
であるAZC912合金は,AZ91合金より破壊荷重が20%
程低下するという弱点を持っている.機械的強度の向
上については現在,研究開発が続行されているB).
2.4 現状において発生し得る災害とその防止策
我々の所有する鋳造実験装置は,高周波溶解炉と消
失模型鋳造装置からなる7).Fi g.2,Fi g.3に示すように
両者J 〕距離はおよそ2.6111程離れており,鋳型内に溶湯 を流L込む際に,据付階段をこ〕段上る必要がある.溶解
した難燃性丸蝮合金を移動させる際に,落下,衝突等に より溶湯を床に流出させる事故の危険性がある.
溶湯をコンクリー ト床にこぼした際,高熱によりコ ンクリート中の水分が気化して小規模の水蒸気爆発が 発生し〕コンクリーート破片が飛散したという事故例1)が あるたれ すべり止め付鋼緩を実験室の床に敷設Lた. i 4九ノI g+F〔≒ヨ〔〕4ニ4九蝮0+こうF(ゝ‥・(4)
・九i g+FeO =九蝮0+F〔い‥(5) 2.2 過去の事故例の調査
工場現場において,過去実際に発生したれI g合金に関 する事故例を集札 発生状況と原因を調べた.日本マ
グネシウム協会が調査し た八堰合金取扱作業における災 害の発生状況をFi g.1に示す1)
電気設備における
機械・仕上加工・集塵時における
事故 390も
Fi g.1マグネシウム合金取扱中における災害状況
Fi g∴巨乃グラフより災害発生率が高い作業は,機械・ 仕上加工のように微粉が発生ナるとき(こう9%,)であり, 次いで溶解作業,貯蔵・舜棄時,鋳造作業などの順番 になっている.
各作業における災害事例を見てみると以下のことが いえる.
丑溶解・鋳造作業
鋳型,治具または追加挿入したインゴットに付着し
ていた7k滴が溶湯の熱によって水蒸気爆発を起こし、 溶湯飛散㍉発火に至る例が多い1〕二)
鋼製溶解鍋のサご(酸化鉄)が堆積した箇所に,る つぼの割れによって流れ出た九ノI g合金溶湯が接触し5 テ ルミット反ノ応による高熱を発生し,Ⅸ穣合金を気化 爆 発を引き起こした例もある1)=)
豊 機械加工・仕上げ加工
機械装置周辺の清掃を怠り,周囲に堆積した微粉に 加工時の火花が着火した例が多い1:’
ユ‡貯蔵・廃棄
数十\数副{g単位の量のⅣ抱合金粉末を貯蔵。廃棄す
る虜ミニ 主に下記のような状況での事故発生が目立つ. 乾式集塵機から粉末を酎l 文中に火花が飛び】発火後,
爆発した例二〉
・安定化処理をせずに野外に放置,雲たは7kが混入し
たなどの理由により水素が発生し自然発火した例1㌧、コ、
。他ゾ〕金属粉末と混入して,知らずに焼却処分Lよう
すべり止め付卵俺
高周波溶
模 Fi g.2 実験装置配置図(平面図)
平成12年度 研究報告 大分県産業科学技術センタ鵬
主成分物質が熱分解反応により (6) (7)式にホ すように水を発生するため,使用することはできな い1).我々は間違って使用することを防ぐため∋ 実験 室内のABC消火器を撤去し,1r I g合金用消火器を作業ス ペースの近い位置に設置した.
。ABC消火器(主成分‥第1リン酸アンモニウムこN上14H=
PO
4)
トH4とi 二PO。 ⇒上1PO∴丁舶一 NHJ ・・・(6) ・B(言肖火器(主成分=重炭酸ソーダこ1aH叩」)
2NaH〔二0。 ⇒トa2〔二0」十 をモ誹 ト〔二0∵・・(7)
3.実験方法及び結果
3.1実際の溶解・鋳造作業
鋳造実験は消失模型鋳造法により行った.消失模型 鋳造法とはFi g.5に示すようにスチローール模型を鋳型枠 内の砂中に埋設し)鋳型枠内を減圧して溶湯を流し込 み,スチロールと金環を置換する鋳造方法7である. Fi g.3 実験装置配置図(側面図)
2.5 身体的安全手法
実験作業者の安全を守るため,耐熱対策を重視し た。完全な耐火服を着用すると身体動作の妨げにな
り危険となるため,Fi g.41)に示すように,火傷を負 わないよう保護具に付着した場合に,すみやかに脱 ぎ捨てられることが可能なものを選択した.短靴型 の安全靴を選択したのも,編上型の安全靴では溶湯 が靴の隙間から流れ込んだ場合,すみやかに脱ぎ捨 てるのが困難なためである.
品
製
⊥▼
m
闇腿
Fi g.4 安全装備の着用 2.6 災害発生時の対処方法
実験において発生し得る災害は,溶湯飛散とそれ に伴う火災である.hI g合金火災における消火には水 は厳禁であるため,鋳錬の切り屑,鋳物砂,金属用 消火器などによって酸素を遮断して火勢を抑える. 特に鋳鉄の切り屑は熱伝導性が高いため,熱の放散 が速やかに行われ,充分な量で被葎すれば鎮火効果 は高い.反面,錆びている場合,テルミット反応を 起こすので,保管には乾燥状態を保つことが必要で ある1).
表面的には消火したように見えて阜)5 内部では燃 焼状態が継続し ̄ごいる.よって,火勢が衰えたとき に,少量ずつ安全なところへ移動させてから,完全 に燃焼させてしまう必要がある1).
一般に事務所等に設置されている赤い容器の消火
器は購(ニ消火器,強化液消火器,B〔二消火器である.強 化濃消火器の消火剤は炭酸カリウムを主成分とする 水溶減であり,ÅBC消火器およびB(守肖火器の消火剤は
Fi g.5 消失模型鋳造法
円筒及び円柱状,立方体状の発泡スチロ脚ルを加工、 接着し,Fi g.6に示すような模型(パイプを接続させる
ためのジョイント部品)を作成Lた.この模型表面に
無機性の塗型を施し,鋳物砂中に埋設し,難燃性眠合 金を鋳込んだ.鋳造方案は押し上げ方案を採用した.
Fi g.6 スチロール模型 F「i g.7に鋳造試作品を示す.厚さ5川m折円筒肉厚部
分にも溶湯は充填した.模型表面の状態(スチロー、,′ ・・ル
平成12年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
が,より安全性を確認できると考えられる。
4. まとめ
難燃性㌢,I g合金を取り扱う際グ〕安全指針を作成し、そ れに従い消失模型鋳造実験を行った.
(1)難燃性九旬合金が溶融状態にあるときは決してさ 他
プ〕液体を混入させてはならない。混入した場合さ 急キ敷 な気化による飛散が生じる.
(2)溶解を行う際、使用する容器及び溶融金属に触れる 治具の材質がFe系である場合,酸化スケールの除去を 必ず行う必要がある.酸化スケールが溶融状態の難燃 性m‡g合金に接触すると、還元反応により急激に高熱を
発生しユ その熱により発火・爆発する可能性がある.
(こ〕)発火した場合はク 酸素を遮断する鋸勺で, 充分な量 二っ鋳鉄の切り屑,金属火災用消火剤又は鋳物砂により
燃える溶湯を薄い火勢を抑える.普段目にする一般消 火器はヱ 熱分解更応等によって水が生或ナるた軌二使 用してはならない
(ヰ)溶解・鋳造時に確認しなければならないことは,溶 湯に触れる溶解妻軌 治具及び難燃性九工g合金インゴット そのものが乾燥状態にあることと,溶解から鋳造へ移 行ナる隙、溶湯のハンドリング作業時の作業スペース が確保されているかの2点である.
5.謝辞
本研究の遂行にあたり,難燃性マグネシウム合金を ご提供頂くと同時に,貴重なご助言を頂きました産業 技術総合研究所九州センター(旧:九州工業技術研究 所)上野英俊主任研究官,坂本満主任研究官ならびに 材料基礎工学部金属材料研究室の皆様に深く感謝の意 を表し三す.またさ 実験装置作成にご協力頂いた藤原 夏義民に深く感言射の意を表します
参考文献
1)日本マグネシウム協会:マグネシウムJ 〕取扱い安 全手引き,16
2)宇野忠志:アルトビア Vol .封)No.820(〕仇 21
こう)秋山茂,上野英俊,坂本満:まてりあ1γ 01」う9二ヾ0. i 2000.72
i )日刊工業新聞1998.1.28
5)日本マグネシ ウム協会:マグネシウム技術便覧 6)上野英俊,秋山茂,坂本満:鋳造工学会全国講演
大会概要集,1;う5(1999),1
7)吉浦洋之さ 清高稔勝:平成元年度大分県工業試験 場研究報告,こぅ8
粒子の軽罪等)′ うミそJ )三三試作品に転写されていた.
F豪g.7 鋳造試作品 3.2 溶解作業中における安全上の考察
約6仰gの難燃性1f g合金インゴット1個を黒鉛るつぼに 入れ,高閣渡溶解備により溶解Lた.加熱開始から完 全に溶解するまで大気中にて行ったが、溶湯の発火現 象は確認されなかった.
こけ後,溶湯ヰけ不純物を除去するため∫ 真空脱気 処理を行いさ 鋼製ヘラーさ溶湯表面寧に浮上した不純物 を除去後、再加熱したが発火は確認されなかった.
実際に溶解を行い, 難燃性n√I g合金は水滴の混入がな い限り安全に溶解できる,つまり通常グ)金属と同様に 溶解作業が行えることが確認され7こ.
現在使用している溶解炉は高周波溶解炉である.こ
の炉は高周波により溶解する金属中に電流を発生させ,
その抵抗熱によって溶解させる方式である.仮に複数 のインゴットを同時に溶解する際,インゴット同士が
局部的に接触していたら,電流J 〕流れる面積が小さい 程,抵抗熱は高くなる.こ〝)熱が難燃性加工g合金〝)燃焼 開始温度射であるユ10()Ⅰ;以上であれば発火する可能性は 充分にある.よって,実用化した際ク エ場等での作業 は溶解量が増大ナるであろうから,溶解炉は高岡波炉 ではなく,るつぼの外側から発熱体などで加熱する外 熱式炉が望まLいと考えられる.
3.3 鋳造作業中における安全上の考察
溶湯を鋳込んだ際,スチロール模型が消失し,溶湯 金属に置換される際に発生するバックファイア(いず れの金属でも発生)が確認されたが,金属自身の発火 現象は確認されなかった.
ただし,溶湯を流し込む問,白熱した溶湯金属を凝 視していたため,視線を外した際,一時的に周囲の情 景が見え難くなった.作業場の足場は,そのような状 態になって呈)視認できるように明るい色彩を施した方